技術コラム:OPTISHAPE-TSの理論

第31話 関数の最適化とその応用について

本コラムも気づけば30話を超える数の記事となりました。 「OPTISHAPE-TSではどのような理論に基づいて最適化しているのか?」というお客様からの疑問にお答えすることを目的として始まり、それに関連してその中で使われているいくつかのアイディアについてご紹介してきました。 日頃からご愛読いただいている皆様には、この場を借りましてお礼申し上げます。

もっと詳細まで立ち入ってお話ししたい内容もまだ数多くあるのですが、コラムという気軽な読み物としての位置づけを考えるとここでお話しできることにも限りがありますので、急ではありますが本年最後となる今回の更新で一区切りとさせていただければと思います。

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過去の記事でもお話ししましたが、ノンパラメトリックな構造最適化は最適な関数を求める問題に帰着します。 「関数を最適化する」ということを考えたときにどのようなことが問題になってくるのか、そしてどのようにして答えとなる関数を導き出すのか、本コラムを通じてご理解を深めていただけたでしょうか。

実は \(H^1\) 勾配法に関して言えば、形状最適化やトポロジー最適化のような最適設計問題以外でもいくつかの分野における関数の最適化問題で応用されています。 今回は簡単にではありますが、最近の例のひとつとして、人間の嚥下動作における筋活動を同定するというものをご紹介します。 参考文献となる論文については本記事の末尾に記載させていただきますので、ご興味があればぜひご覧いただければと思います。

お正月が特に多いですが、なにか物を食べるときに喉に詰まらせてしまうという事故をニュースなどで耳にすることがあります。 人間の嚥下動作のメカニズムは非常に複雑なものとして知られています。 嚥下動作に関わる喉の各種器官の表面の動きはCT画像などにより観測できている一方で、その内部で筋肉がどのような収縮を起こしてその動きを生み出しているのかを知ることは容易ではありません。

そこで、ある単一の器官を超弾性体でモデル化したうえで、内在する複数の筋線維方向を用意しておきます。 そしてその表面の動きが強制変位としてあらかじめ与えられたときに、それぞれの筋線維の収縮だけでその変形を再現させることを考えます。 今回の問題ではその収縮の度合いを空間の関数としており、これを求めることを試みているのです。 そして、強制変位を与えたけれど筋線維による変形だけで十分であるという状態を見据えて、強制変位によって発生する反力の総和が最小となるような収縮を求める最適化問題として定式化します。 ここで形状最適化やトポロジー最適化と同じように、\(H^1\) 勾配法を用いて最適な収縮の度合いを表す関数を求めています。

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最終回ということで、今回はOPTISHAPE-TSに含まれる形状最適化やトポロジー最適化からは少し脱線して、これらを包含するような関数の最適化問題としての一例をご紹介しました。 もちろんノンパラメトリックな最適化全般への理解が深まればと思いますが、もし読者の皆様のまわりにもなにか関数の最適化に置き換えられるような問題があり、それらを見つける視点にもなれば幸いです。

また、重ねてのお礼となりますが、本コラムをここまで読んでいただきありがとうございました。 今後もOPTISHAPE-TSにしかできないような機能の開発に力を入れていく所存ですので、引き続きご愛顧のほどよろしくお願いいたします。

参考文献

  1. Hideyuki AZEGAMI, Shinjiro ONO, Kenzen TAKEUCHI, Takahiro KIKUCHI, Yukihiro MICHIWAKI, Keigo HANYU, Tetsu KAMIYA, "Identification of muscle activity in tongue motion during swallowing through medical image data", Journal of Biomechanical Science and Engineering, 2022, Volume 17, Issue 1, Pages 21-00254.


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